セルフスタディ(自己研究)とは,経験科学教育に必要な知的関わりあいの共通の基盤となる学びのスタイルです。これは,自己のバックグラウンドの及ぼす影響を踏まえつつも,仮説実験を通じて自分たちの姿をよりよく理解しようとする方法論的態度によって学びあいを実践することで,新たな自己へと弁証法的に統合するプロセスの循環です。
この目的を、学びあいの成果に置くのではなく,むしろ学びあいを積みながらすべてのメンバーの地平(経験的価値判断の広がり)を統合し,組織アイデンティティと同時に自己アイデンティティへと還元することに置きます。(※『自己と関わりの創造学ーセルフスタディの教育研究』大学教育出版2012より抜粋)

レイブは、「正統的周辺参加」に関する記述のなかで「変わり続ける参加の位置と見方こそが、行為者の学習の軌跡(trajectories)であり、発達するアイデンティティであり、また成員性の形態でもある」[レイブ2017]と指摘しています。つまり、ただ組織との関わりを俯瞰するのではなく、むしろ波紋の及ぶ身近な他者と深く関わり続けることによって組織におけるアイデンティティを醸成するのです。私は、セルフスタディが正統的周辺参加に符合する主体的な学びのパラダイムであると捉えています。学びあいにおける弁証法的統合は、一人ひとりの視座に、言わばありのままの傾性を能作しますが、その活動を社会的なムーブメントに落とし込むことで、時間を味方にして関与者相互の格率に矛盾しない「公平」観を培うことができると考えているのです。したがってセルフスタディは組織との共生的なアイデンティティの自覚を醸成する社会運動(societal movement)とも言えるのです。(第4講 共生的アイデンティティ構築のムーブメントより抜粋再構成)
[補足]本セルフスタディは、1990年代にアメリカから導入された大学改革におけるFD(Faculty Development)研究から生まれた学説です。一方教師教育学の分野でもJ.ロックランの唱える同名のセルフスタディがあります。両者の特筆的な違いは、前者が広義FDに重きを置いた個人と組織のダブルループ学習による共生的な組織開発論であり、後者は狭義FDに相当する一人称(自分)の教育実践をクリティカルな研究にする教師開発論であると捉えています。対話の志向性に関しても探求か探究かの違い、すなわち(弁証法的統合における)意味の協創的探求か教育「知」の還元的探究かの点で異なります。
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